好奇心のまま~瀬谷道子が見つけたこと

インタビューしたり取材して、はっとしたことを紹介。いいこと、楽しいことはまだまだこんなにあるよ

色を慈しむということ

「色という言葉はエロからきてるんじゃない?」と驚くことを言うのは染色家Aさん(68)。人はもともと色欲があっていろんな色が欲しくなるんですって。

昔、色は七色くらいしかなかったのに、今は化学染めで膨大な色に。でも皮膚によくないものもあるようで要注意は黒。色素がコールタールから抽出されたものなのですすめられないと釘をさされました。

天然染めを四十年。木、葉、茎、根、花等植物のほとんどを使いますが、その瞬間の発色のため、色の出具合が毎年違う上、同じ種類でも色素が一定ではなく、二度と同じ色は出せません。その一期一会も魅力のひとつ。自然のものなので時が経つと変色や色落ちもありますが、使い込むと味わいも出て愛着がわきます。

即位の礼等の行事で用いる皇室の衣服は天然染め。今ではぜいたくですね。昔、色には制度があり、天上の色はブルーで一番高貴な色とされました。紅花と南天を掛け合わせて作られたのが黄耆(おうぎ)色で、即位の礼の時の赤と黄色がかかったあの色。民はツルバミ色(ヤマモモで染めた薄茶色)を着るべしという法令があったそうです。この色も後には高貴な人が着るように変わり、時代とともに色使いが変化するのもおかしいですね。

江戸末期に婦人病がはやった時は紅花が効くと言われ、女性たちが赤色のおこしや襦袢に使い、広まりました。それ以降庶民もいろんな色を使える時代になったようです。

季節には色があります。春はグリーン、夏は藍が主流でスカイブルー、秋は茶、冬は暖色系です。まさに十二単の色。

春一番フキノトウで若菜染めをします。黄色味がかったグリーンになります。

夏は藍が主流。秋はどんぐり、栗、月見草。栗のイガイガはまだ若い時はピンク系ですが、皮を使う渋皮染めはワイン系で色を楽しめます。月見草は品のいいグレー紫で思いがけない色が出ます。

冬は暖色系で、桜、梅、杏子の木をチップにして使います。茜の根を使った茜染めも華やかで女性が好む色だとか。

心配なのは外来種の植物が蔓延していること。童謡に歌われている植物が消えていくなんて、恐ろしい気がします。 

「大切なのは手作りのものを大事にし、衣食住をきちんとすることではないでしょうか。モノを作る人は足元を見て自然に目を向けて暮らしている。完璧でなくてもいい。そういう気持ちで生きるということが今、求められているのではないだろうか」

取材しててハッとしたのは、好きな色を求めるのではなく、植物から出る色を慈しむということ。忘れていました。