『16歳の花嫁』を出版したTさんが先週、亡くなりました。八十四歳でした。
塾に通って十年近くになり、出版した本は四冊。この本は第一作です。
貧しい村に七人兄弟の長女として生まれ、戦争の中で育ちます。十五歳のある日、学校から帰るなり母親から「今夜見合いすることになった、早うご飯食べてくれ」。他人事のように思えて翌日も登校したTさん。口が減ると助かるだろうと承諾したものの、夫の方は結婚する気が全くなかったため妊娠しても、虫下しを飲めと強制される始末でした。
息子を腫れ物のように扱う姑たちの下で働き詰めだったTさん、口答えは許されません。畑仕事で泥のように疲れていても毎晩夫の体をもんでやるという日々。
なのに理不尽なことで離縁され、再婚した夫は徴兵から生きて帰ったもののギャンブルから抜け出せずアルコール依存症となり、自殺。
いつもいつもTさんが働いて家計をやりくりしていました。
Tさんは塾のなかで一番の書き手です。広告の裏やノートの切れ端に鉛筆のなぐり書きのようなものが多く、書きまくるという感じ。「ここに来ると自分が出せる。」と喜んでいました。合評のときは「こんなものだけどいいかしら」と奥ゆかしげな振りをしつつ、たっぷりな皮肉を込めたユーモラスな作品を書くため、みんなが笑うことといったら。
亡くなる少し前にきた電話は「やっと書けるようになったのに…」。悔しいです。
本のあとがきにはこうあります。「自分を書くとはなんと難しいことであろうか、恥を丸出しにするとはなんと勇気が必要なのだろうか。書いては消し、消してはまた書き、誰のため、なんのためと考え続ける」。
「私が私のために生きられる世の中がほしい」と言ったTさん、戦争を憎んでいました。