ほんとに辛くてたまらないときは、ある音楽を聴いて、ガッチリ泣くといいのだと話したAさん。先日、私を心配して来てくださつたとき、その音楽を教えてくれた。
カツチーニの「アベマリア」とウクライナの歌手ナターシャの歌。体にジーンと応えていくのが分かる。
彼女はエッセイ塾の生徒だが、仕事が現役でもあり、なかなか参加できないが、何かかあると声をかけていて、参加してくださる。子ども3人。シングルマザー。自分の給料は自分のものという夫と離婚。
私の夫のような考え方だからやつていけると思つてたものの、全く違ったと言う。何度も私の夫のような人はいないよと言葉を重ねた。
彼女は、悶々とする日々に、存分に辛さを吐きだす方法を実行していたのだ。今は元気に暮らしている。
我慢してはいけない。嫌なことは遠ざけること。辛さを存分に吐きだすには叫ぶほど泣くこと。心から泣くことが、辛さを浄化してくれることは、何かで証明されているらしい。
そして彼女は、この歌を聴く。涙が溢れ、流れ、ワーワー泣けてくる。心が軽くなるまでワーワー泣くのだ。
私も早速この歌を聴いた。寂しくてたまらない自分に染みとおる。
でも、涙は出ない。
私は夫が亡くなつてから、体一杯心ゆくまで泣いたことは、ない。泣けないのだ。
ただ夫と自転車てよく通った道を通るとき、自然とワーワー泣いてしまう。「なんでこうなるのよ。何でだよお」と弱い声を絞りだしながら。でも一生懸命ではない。
それに、家に着くと泣くのをバタっとやめてしまう。
分かるのだ。夫がいなくなつたことを、私は認めない。とても認められない自分がいる。心にドシンと落とし込むことを拒否している自分がいる。
こんな感情のまま、淡々と日を重ねて行こうと思う。
いつか、ワーワー泣けるのか、分からないけれど。