好奇心のまま~瀬谷道子が見つけたこと

インタビューしたり取材して、はっとしたことを紹介。いいこと、楽しいことはまだまだこんなにあるよ

いのちが大切なのは、たくさんの人の祝福の累積があるからこそ

以前紹介した長野・上田市にあるエディターズ・ミュージアムの館長荒井きぬえさんの幼いころを綴った父親の作品から。

「私はお前をえた」という一作。荒井さんが生まれたときのことを書いています。

「お前のお七夜ということで、十何人ものお客様だ。~私はふっと涙ぐむ。ひとりの人間が成長する過程には、こんな素朴な祝福が何度となく積み重ねられているのだ。私たちは一人一人の人間を、そういう祝福の累積として見ることを忘れがちだ。~人のいのちが大切だということの内容は、ひとりの人間の中にも実にたくさんの人々の祝福が積み重ねられているからだ、ということになるのかもしれない。お前によって、いまさらのように命の尊さ、温かさを知る」。

また誤ってケガをさせてしまったときはの苦悩も書いていました。

「これからお前の成長過程を通じて、こんなつらい思いを何度も味わわなければならぬことを思うと、いまさらのように、人の生きることの深さを考えさせられる。子どもは可愛いという月並みな言葉の持つ意味深さも新たな深みを加えて私に迫ってくる。~さりげなく凡々とうごめいている無数の父や母の心に、こんな痛みやすい心が秘められているのだとは。うかつにも、これはお前の傷によってえたわたしの新しい体験だ。~(新聞が)戦争を報じている。爆撃とか占領とかいう文字を読むわたしたちの心には~将棋見物の心情が先にたちやすい。しかしわたしの心は、こういう痛みやすい父や母の心を、先に感ずべきなのだ。お前を抱きながら、何トン、何機という文字に注目する。するとその一トン、その一機が、ぴくん、ぴくんと、私の心に痛い。どうか世界の皆さん、一発の弾丸でもどんなに父や母の心が痛むか、そういう数えきれない累積として戦争を思い、新聞を読んでください。私はいまさらのような反省で、~無意識にお前の頭をなでてしまう」