好奇心のまま~瀬谷道子が見つけたこと

インタビューしたり取材して、はっとしたことを紹介。いいこと、楽しいことはまだまだこんなにあるよ

生きるということ

若年性パーキンソン病Tさん(五十四歳)は、オルゴールの出前コンサートを四百回も続けています。七月に京都の町屋で開かれたコンサートにでかけました。舞台にアンティークオルゴールがズラリ。小鳥が、本物そっくりに舌を震わせて鳴くオルゴールには見入ってしまい、からくり人形 (これもオルゴール)がしゃぼんを吹く姿にはくぎ付けに。響きの美しさ、かわいさに拍手が何度も起こりました。
 Tさんが所有するオルゴールは約百。買い集めるきっかけは幼稚園教師の在職中、たまたま聞かせてもらったオルゴールの音色に惹かれてからでした。
給料日に一つひとつ買い求めるのを楽しみにしていたTさんに襲ったのがこの病気。発病は三十五歳でした。脳内の神経伝達物質が減っていき、突然言葉が出なくなったり、顔が急にこわばることも。止まらないふるえ、歩行も困難になっていき、退職。
これからどうなっていくのか怖さで胸が張り裂けるほどだったTさんに、夫がすすめたのはオルゴールコンサートでした。集めているだけなら道楽だが、聞かせてあげれば社会貢献になると。幼稚園、小学校など、週四回くらい出向きます。
目を見張る子どもたち。二歳児が三十分も静かに聞いてくれたのには驚きました。いい響きのもつ力でした。 
コンサートではまず、病気のことを話します。正しく知ってほしいからです。Tさんの兄も弟も、成人してから発病。バリバリ仕事をしていた弟の進行は早く、耐えられなかったのでしょう、四年前に自殺。悔しかった。命の大切さを分かってほしい、自分を大切にしてほしい。Tさんが今できるのは、このメッセージを届けることだからです。
Tさんは一時間半ごとに薬を欠かせない体です。朝食づくりのときなど、薬がきかないうちは、口にハムやパンを加え、這って準備します。
「完治できない病気といっても動いたらいけない体ではない。家にこもり、動きを制限する方が寝たきりを早める。活動している方が薬がきく」と、ボランティアで幼稚園で子育て相談もするTさん。
「今できることを大事にしたいから」と。