好奇心のまま~瀬谷道子が見つけたこと

インタビューしたり取材して、はっとしたことを紹介。いいこと、楽しいことはまだまだこんなにあるよ

「ことばのしおり」

畑を始めて三年。先日インタビューした長野に住む文学研究者堀井政子さんに、「さぐり芋」の話を聞き、そうかあと野菜について実感することがありました。

堀井さんの住む信州ではジャガイモが採れるのは七月。毎年、そのころになると家庭菜園をしている友人が両手に包むように掘りたてを届けてくれ、「ほらっ」と堀井さんの差し出す両手に移してくれたそうです。夫婦だけなのでこれで充分。互いに上げ上手、もらい上手なのです。

「さぐり芋」というのは、そろそろ収穫時期と思ったときに土に手をもそもそと入れると小さい芋の先に大きいのに当たることがあり、やった!と掘り上げる。ひと足早い旬をいただくことなのです。

土地の人からは他の命名も教わりました。「親助け(大きいのを取ると他が大きくなるから)」「盗人芋」「いやし芋(食いしん坊)」、畑から抜くから「抜き芋」だって。

言葉の暴力がのさばっている昨今、「言葉とは人の背中を押してくれるもの、言葉の持つあたたかさを伝えたい」と堀井さん。「言葉は私が見つけてくれるのを待っている」とも言います。

そして見つけたひとつが「恩送り」。井上ひさし氏の著作から見つけました。直接恩を受けた人に返すのではなく、別の人に送ることです。

井上氏は幼少のころ、一家が極貧の生活だったとき、岩手の人たちに暖かく迎えられて生き延びたことが忘れられず、岩手からの要望にはずっとボランティアで応えていたのです。

井上氏のエピソードをひとつ。本屋のおばあさんの目を盗んで辞書を持ち去ろうとしたところ、とがめられます。おばあさんは、一冊売ることがどんなに大変か話した後、薪割りを命じます。終えて帰ろうとしたとき辞書をくれたおばあさん。「欲しいものはこうして手に入れるものだ。これがまっとうに生きるということだよ」と諭されます。

 ついでに「お福わけ」という言葉をご存知ですか。「お裾わけ」でははじっこをあげてるようで失礼な気がしていた堀井さん、信州で出会い、これまた「未知との遭遇」だったそうですよ。堀井さんの著『ことばのしおり』(品の毎日新聞)をぜひどうぞ。