好奇心のまま~瀬谷道子が見つけたこと

インタビューしたり取材して、はっとしたことを紹介。いいこと、楽しいことはまだまだこんなにあるよ

置き忘れていた優しい感覚

もうすぐ本誌も閉じるとなると、これまで取材した方たちのことが次々浮かんできますが、いずれも新しいことを学ばされた気がします。

 

「女性による女性のための写真学校」を開校したのが京都のAさん。欲しいものがなければ自分で作るのだと言って。「女性はこうあるべきという概念を崩す」視点で撮ってほしいと話します。

 

今やスマホで簡単に撮れるものの、抗してフィルムカメラ。フィルムで撮る写真の美しさを知ってほしいと力を込めました。

 

取材に行くと、すぐ見せてくれたのが、ある美容室に飾られている男性に抱かれる女性の写真。「おかしいでしょ。女は受け身。女は愛されるもので、男は愛してやるもの。夫婦の写真でも夫が妻を保護している形が多い」と苦言。こんな写真が街のあちこちに。ちょっとどうなのよという視点で見てほしい。すると撮る写真も違ってくるはずなのだと。ボケーと見ていた私は、即反省。

 

写真学校を立ち上げたのは、そんなことに敏感になってほしいからですが、もうひとつ、写真がやりたい女性がやれる条件の学校にしたかったから。「女性は結婚、出産で好きなことをあきらめざるをえず、自分にお金を使うことが後回しになってしまう。私だって安くて勉強できる条件があるなら入りたかったから」。

 

写真学校のカリキュラムにはジェンダー論が登場します。女性写真家の眼から見つめ直し、ジェンダーの視点から分析していきます。「日本社会は男性優位で女性が不利になることが多い。でも気付かない人もいる。気付くことが大切。分からないままの人もいるがいずれ、こういうことだったのかと感じるときがあるはず。それでいいと思う」。

 

丁寧に写真を撮り始めて自分が変わりました。それまでは時間は目いっぱい使わないともったいないと思っていたのですが、ファインダーをゆっくりのぞき込むようになると、見える以外のもの、ヤカンからほこほこ立つ湯気やガラスポットについている水蒸気なんかがダダダッと体の中になだれ込んできたそうです。ココロの扉がパタン、パタンとものすごい音を立てて次々開いていく感じだったとか。

 

そしてAさんはスマホを手放しました。もっと見たいモノ、聴きたい音があるからです。どこかに自分が置き忘れていた大切な優しい感覚を連れてきてくれた気がしています。いい言葉をたくさんもらいましたね。