好奇心のまま~瀬谷道子が見つけたこと

インタビューしたり取材して、はっとしたことを紹介。いいこと、楽しいことはまだまだこんなにあるよ

ドイツの脱原発の底流にあったもの

私の編集する「ウィメンズ・ステージ」の読者の企画した映画会に出ました。
ドイツ映画「見えない雲」。原作はチェルノブイリ原発事故の翌年の一九八六年に発売された児童小説。著者は小学校教師だったグードセルン・パウゼヴァングさん、当時四二歳。原発事故や放射能被曝について子どもたちは危険性を知る権利があるとして、出版。ドイツだけで百五十万部のベストセラーになり、小中学校では国語教材として取り入れられています。
 上映後、解説してくれたのは小説を翻訳した翻訳家高田ゆみ子さん。
 主人公は十四歳の女の子ハンナ。授業中に原発事故発生の警報が鳴り、その瞬間から学校も町もパニックに。放射能の雲から逃れようと人々家を捨て、持てるものだけを手に駅に殺到します。金持ちは飛行機でいち早く逃げ去ります。情報は何も入らず、電話は不通。警察は「逃げろ」とマイクで怒鳴るだけです。ハンナの母親は出張中で、小一の弟と自転車で駅へと向かいます。途中見た街はゴーストタウンと変わり、牛の群れが突然現れたり、犬たちが餌をあさっている光景が。弟は常軌を逸した人々の車にはねられ即死。遺体はトウモロコシ畑に置き去りにするしかありませんでした。人々の群れに押しつぶされて気を失ったアンナを待っていたのは母の死と自らの被曝でした。病床のテレビは「警戒区域が解除され、人が戻っている」「収束した」と声高のアナウンス。
 ある日、警戒区域とされた自宅近くに向かったハンナは小さくなってしまった弟の遺体を見つけ、ほおむるのでした。
 ずっと、福島の状況とそっくりではないか、と息を飲んでいました。
 グードセルンさんは福島第一原発事故の直後、ドイツ誌のインタビューで、「小説には原発事故について政治家は誰も準備ができていなかったこと、メディアの流す情報は矛盾があったと書いたが、今これが日本で起こっている」と指摘しました。
 脱原発を決めたドイツ。小説は十四版を重ね、二十四年も読み続けられています。脱月発の世論を広めるひとつになっているように思えました。
 彼女は八十二歳。各地で話に歩いています。高田さんによるとこう話しているそうです。「人生終盤は勇敢でなくてはならない」と。同感です。
ぜひここのフリースペースでも上映したいと思っています。