「人の命」がテーマのドキュメンタリーを製作するディレクター・Hさんを取材しました。
なぜ死刑囚を追うのか。「ある事件を一視聴者として調べたらマスコミの情報が偏りすぎていて、本当はどうなんだろうと調べ始めた」のがきっかけです。
本当に極悪非道な特殊な人間の起こした特殊な事件と言い切れるのか。
「なぜ私たちの社会でこういう出来事が起きるのか。そこまで広げて考えてほしい。怖いことに私たちは一方的な情報しか与えられず、知らされない情報がたくさんあり、存在すら伝えられないこともある。だからこそ命を考えるとき、悪いことをしたのだから死んでしまえというだけでいいのかどうか。立ち止まって考えてもらいたい」と言います。
Hさんが危惧するのは殺人事件は一日一・五件と減少しているのに自殺が一年に三万人、一日八十人以上にのぼること。
若者の自殺の多さこそ社会のゆがみのはず。膿がプチプチ出ているのに、出た膿だけなくせばいいということではないはずと指摘します。
昨年の犯罪白書では犯罪の七割近くが家族間。社会が、家族が病み、その象徴として許されない犯罪が出ているとしたらー。
「人はすぐ善と悪に分けたがる。でも人は見る方向で違ってくる。ただ人に共通するのは生まれながら弱いこと。楽な方に行きたがるし、トラブルがないところにとどまっていたいと思うし、考えると苦しみが始まるから考えたくない。でも弱いからこそ、やったらやり返すことに流されず、踏みとどまりたいはず。そこに私は石を投げたい」。
たぶん石を投げられたら悩むでしょうね。でも悩むのは少なくともやられたらやり返すというだけで動いていない人間の姿なのかもしれません。
それにしても世の中は割り切れないことの方が多いのに人は分かりやすい言葉をすぐ求めます。
悩もうとしないんだなあ。