好奇心のまま~瀬谷道子が見つけたこと

インタビューしたり取材して、はっとしたことを紹介。いいこと、楽しいことはまだまだこんなにあるよ

:原発を許さないために

女優・吉永小百合さんに十年も手紙を書き続け、先月、千二百人の参加で「吉永小百合原爆詩朗読会」を成功させたのは、私の編集する雑誌の読者Kさん、五十代。
福島在住です。
第一部は故郷への思いあふれる構成詩「今、福島の私たちが思うこと」。第二部が吉永さんの朗読です。
Kさんが吉永さんの原爆詩の朗読と出会ったのは子ども四人を残して夫が亡くなった翌年の二〇〇〇年。
情感を抑えた声で「二度と繰り返してはならないこと」「決して忘れてはいけないこと」を伝える役目を自ら生み出し、続けている思いの強さに打たれ、福島でいつかやろうと手紙を書き始めたといいます。
願いは叶った。ただそれまでと違ったのは参加する人も準備する人も被災者だったこと。「こんなときに朗読会?」の声。それでも「二度と繰り返さないこと」「決して忘れてはいけないこと」を伝えたい一心で仲間と準備に奔走します。「様々な思いを振り子のように揺らしがらの暮らし。原発事故は予断を許さず不安が襲う。でも私たちは前しか見ていなかった」といいます。
 準備はきつい。つまずくたびにKさんが聞いたのが吉永さんの朗読する詩「生ましめんかな」でした。暗い地下室で産気づいた女性を気づかう人々、新しい命に自身の命を託して逝ったお産婆さん。Kさんはお産婆さんの姿に今の福島を、自分たちを重ねます。
 人は原発から離れることはできないのか。福島の後は? その先を明確にして持ち帰ってほしいと願ったKさん。
Kさんには確信がありました。耳を澄ますことは聞く人の奥深くに眠る本当の自分の声にも耳を澄ますことになるはずだからと。Kさんが当日見たのは、被災後に生まれた詩や原爆の詩の朗読に、全身を耳にして聞き入る人たちの姿でした。
 翌朝、友人からKさんにメールが届きました。「戦場にあって芸術は、人を正気に戻してくれる瞬間ですね」と。
朗読会から1カ月。Kさんたちは「決して忘れてはいけないこと」を胸に「二度繰り返さない」ための一歩を踏みしめています。