しかし、怖さを押さえて読んでいくと、現代の抱える問題がしっかり横たわっていました。
描く未来とは、人の幸せは辛いことや苦難を除くことだから最初からそういうもののない社会をつくろうというもの。すると何が起こるのかー。
『斎藤家の核弾頭』は、選択苦難を避ける超管理国家の世界。人はランク付けされ、妻も子どももあてがわれるだけ。主人公はトップランクされるものの国家から理不尽な扱いを受け、反旗を翻すという物語。このテーマで紹介された一冊がオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』。アンチ・ユートピア小説の傑作です。
最終戦争後、安定至上主義の世界が形成され、人は受精卵の段階から培養ビンで製造され、ランクごとに体格も知能も確定。ランクが下の赤ん坊は育てる段階から、わざと酸素量を減らしたりして知能や身体機能を下げ、成長すると工場で単純作業の日々に。教育で自らの環境に疑問を持たないよう教え込まれ、感情が起こったときは薬を与えられ、幸せな気分にしてもらう。みな一緒に過ごし、嫉妬もない。「すばらしい世界」というわけですが、この世界の神様は自動車王フォードで、最低ランクの人はこの車を作り続けているとは。
もう一冊がロイス・ローリーの『ザ・ギバー(記憶を伝える者)』。決断したり考えるのは苦しいもの。だからひとりだけが全世界の記憶を受け継ぎ、苦難を引き受ける人を決めることでコミュニティーを成り立たせるもの。
「結局自分で選択して責任を負うのがイヤな人の世界なのよね」と参加者たち。
どこかと似ているかもね。